FP1級通信添削.6の解答解説:遺産分割協議書に関する問題
前回の、FP1級通信添削の解答・解説をお届けします。
改めて解答の募集を呼び掛けてみましたところ、今度は多くの方から解答を頂きました。
解答をお送りいただいた皆様、ありがとうございました。
頂いた回答にはすべて目を通しました。
文章量の関係で、そのすべてをご紹介できないのですが、代表的な解答をご紹介しながら、私からの補足解説を交えてお届けしていきます。
今回のお題となる問題は、こちらでした。
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2018年1月 FP技能士1級学科 基礎編 問45(一部改題)
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遺産分割協議書に関する次の記述のうち、それぞれ適切/不適切のいずれかを答えるとともに、あなたがFPとなったつもりで一言程度、関連する補足説明を加えてみてください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━(問題ここまで)━━━
それでは、問題の選択肢を一つずつ見ていきましょう。
以下では、皆様からいただいた解答の中から、代表的な解答となるものを抜粋させていただいています。
~↓選択肢ここから~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1) 被相続人が生前に銀行に預け入れていた預金は、遺産分割の対象とならず、相続人に法定相続分で当然に分割されるものであるため、相続人が相続預金を引き出す際、自己の法定相続分までであれば遺産分割協議書が求められることはない。
■お送りいただいた解答
誤り
被相続人が預けていた預貯金は遺産分割の対象、なので、相続人が預貯金を引き出すのであれば、自己の法定相続分までであっても遺産分割協議書が必要。
■お送りいただいた解答
不適切
預金も遺産分割対象となる点が間違い。法定相続分通りでも、相続預金を引き出す場合には、遺産分割協議書の提出を求められることがあります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~選択肢ここまで~~
はい、解答いただいたとおり、この選択肢は不適切です。
少し歴史をさかのぼって、解説をしていきますね。
実は以前は、「相続人に法定相続分で当然に分割されるものであり、遺産分割の対象にはならない」という法律上の解釈が存在していました。
そのため、預金残高の金額のうち、相続人が自己の法定相続割合分を引き出すことができるケースもありました。
しかしこの引出し行為により、のちのちの遺産分割協議の段階で相続トラブルに発展するケースもあり、金融機関によっては、遺産分割協議が終わらなければ引出しを認めない、という措置をとるケースもありました。
そうした中、預金の相続分を巡った裁判が実際に行われ、最高裁判所までもつれました。
そして2016年12月19日に、最高裁判所は「預金は、遺産分割の対象である」という判決を下しました。
最高裁判所の判決は、それをもって国家のルールとなります。
したがってFP試験でもこれを踏まえる必要があり、本選択肢の記述は不適切という答えとなるのです。
この最高裁判所の判決について触れた解答者は、実はいらっしゃいませんでした。
この問題は、日々の金融ニュースを追うことが試験対策にもなる、というケースでもあったのです。
このニュースをご存じだった方は、容易に答えられたかもしれませんね。
現在は亡くなった方の預金引き出しにあたり、遺産分割協議書や遺言書の提出を求めるのが、通常の運用となっています。
では、2つ目の選択肢を見ていきましょう。
~↓選択肢ここから~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2) 共同相続人間で法定相続分とは異なる割合で成立した遺産分割協議に基づき、不動産を取得した相続人が相続登記をする場合、登記原因証明情報として遺産分割協議書を登記申請書に添付する必要がある。
■お送りいただいた解答
正しい
■お送りいただいた解答
適切。
(関連した質問)法定相続通り相続した場合は、登記の際に遺産分割協議書は必要ないが、相続人すべてが相続割合に応じた不動産の名義人となるという理解でよろしいでしょうか?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~選択肢ここまで~~
はい、この選択肢の記述はこの通り正しく、適切といえます。
「関連した質問」ということでご質問もいただきましたので、それにもお答えしますね。
法定相続割合の通りに相続したとしても、登記する際には「登記原因証明情報」が必要です。
登記原因証明情報は、遺言による相続の場合はその遺言書、相続人同士で分割内容を決定した場合は遺産分割協議書となりますね。これらがなければ、不動産登記申請を受理してもらえないので、「遺産分割協議書は必要ない」ということにはならないのです。
なので、相続人どうしで口頭であっさりと分割内容が決まったとしても、登記の際には面倒でも、所定の様式を満たした遺産分割協議書を作らなければならないのです。
このようにご質問をいただきましたが、1級試験の問題を自分で解いているうちに「おや?」と思うことが、みなさんも頻繁にあるかと思います。
そういう謎は、必ず自分ではっきりと解決しておきましょう。
それが1級を乗り越える総合力に変わっていきますし、自分で調べて納得感が生まれるので、記憶に残りやすくなります。
「おや?」と疑問がわいたら、徹底解決!を目指しましょう。
この通信添削企画であれば、私に質問していただいてもOKですよ!
では、3つ目の選択肢を見ていきましょう。
~↓選択肢ここから~~~~~~~~~~~~~~~~~~
3) 遺産分割にあたって、相続財産を現物で取得した相続人が、他の相続人に対して代償財産を交付する場合、代償財産の支払期日や支払方法などを記載した遺産分割協議書を公正証書により作成する必要がある。
■お送りいただいた解答
誤り
遺産分割協議書の作成は、必ずしも公正証書でなくてもいい。ただし、公正証書が望ましい。
■お送りいただいた解答
不適切。
遺産分割協議書を公正証書で作成する義務はない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~選択肢ここまで~~
ご解答いただいたとおり、公正証書でなくて構いませんから、この選択肢は不適切といえます。
ところで、「公正証書でなければならないもの」って、何があると思いますか?
実は日本で、たった3つしかありません。
しかもその3つが、FP3級のテキストにもちゃんと書いてあるのです!
だからこの3つ以外は、すべて「公正証書じゃなくてもよい」ものなのです。
では、その3つとは、何でしょうか?
その答えは、今週土曜日ごろに発表しますので、それまで皆さんへの宿題とします(笑)
では最後の選択肢を見てみましょう。
~↓選択肢ここから~~~~~~~~~~~~~~~~~~
4) 遺産分割協議書に共同相続人全員が署名・捺印し、遺産分割協議が成立しても、その内容に不服がある相続人は、協議成立後1年以内に限り、家庭裁判所に分割の調停や審判を請求することができる。
■お送りいただいた解答
誤り
まず、第一に家庭裁判所の調停や審判が先に、署名・捺印をした後では、特殊な例外を除いて原則不服は認められない。
■お送りいただいた解答
→不適切。
遺産分割協議書に対する不服申立の時効はない。1年以内に限り、という点が誤り。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~選択肢ここまで~~
お二人がご解答いただいている通り、この選択肢には誤りがあるので、「不適切」が答えです。
ただし、どこに誤りがあるのかで見解が分かれていますので、丁寧に見ていきましょう。
この選択肢の誤り箇所は、「協議成立後1年以内に限り」という記述です。
遺産分割協議に不服がある場合は、いつでもさかのぼって、家庭裁判所に分割の調停や審判を請求することができるのです。
とはいえ、遺産分割協議が成立しているということは、当事者間での合意が形成されているということです。
単に協議結果が不満という理由で家庭裁判所に不服申し立てをしても、それを受理してもらえることはない、または受理されても遺産分割協議書の存在がやがて明らかになり、家庭裁判所での調停や審判が打ち切られることとなります。
ただし、遺産分割協議の時点で詐欺・恐喝などがあった場合には、遺産分割協議そのものが無効とされ、調停分割、審判分割が行われる可能性はあります。
一人目の解答中にある「特殊な例外」にあたるのは、このようなケースですね。
以上の点も含めて、遺産分割協議の効力について、覚えておいてくださいね。
実務上、遺産分割協議書を完成させるときには、納得いかない点や許容できない点があった時には、うやむやにせず、遺産分割協議書に判を押さない勇気が必要です。
遺産分割のやり直しは関係者への負担が大きく、また財産の処分がなされてしまった後だと、たとえやり直しが認められたとしても結局自分の相続取り分が増えなかった、ということも起こりえます。
相続トラブルは、根が深くなると本当に大変なのです・・・
試験問題の解説から、こんなに話を広げてしまって、失礼しました(笑)
今回も、解答いただいた方より一言コメントをいただきましたので、それについては後日ご紹介させていただきます。
同時に、「公正証書でないとダメな3つのこと」についても、ご説明しますね。
明日は、次の問題をお送りしますので、また皆様からの解答をお待ちしています!
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■ 今後の勉強会の開催予定
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